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西 東 三 鬼 の 声 |
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前津山郷土博物館館長 佐野綱由
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西東三鬼の実際の声を聞いたことのある人、いますか?
平成22年11月6日、アルネ・つやまの音楽文化ホールで開かれた第25回国民文化祭の文芸祭「俳句大会」は、県の内外から600席の会場にあふれるほど大勢のお客さんが詰めかけ、俳句の披講や金子兜太先生の講演を楽しんでいただきましたが、この大会の昼食時
間に、お客様サービスとして、西東三鬼の実際の声が会場に放送されたのです。 |
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録音状態は最高レベル、本人の音声も明瞭、また、話の内容も「俳句の作り方」と題して、山口誓子の句を2句、素人の少年の句を2句紹介していて、非常に興味深いものです。
実は、この音源は、今回の国文祭をきっかけに、津山郷土博物館所蔵の資料の中から発見されたものです。
博物館への収蔵の経緯は不明で、津山の三鬼の関係者も、俳句の関係者も存在を知らなかったそうです。 |
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保存されているのは、オープンリールのテープの状態であり、いまの博物館には再生装置がないので、すぐに業者に依頼してCDに変換してもらい、いまでは誰でも利用できるようになっています。 |
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では、この音源はいつ、どういう状況で録音されたものなのでしょうか?
確定的な証拠はないのですが、話の内容を分析し、三鬼の年譜を繰ってみると、昭和36年7月、「作句の方法」(日本短波放送・19日分)とあります。おそらくこれだと思われます。 |
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放送局で録音されたものだから、音がいいのでしょう。また、昭和36年7月は、三鬼が亡くなる8か月前であり、最晩年の声と言えるでしょう。 |
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しかし、そんなことは感じさせない、しっかりした声で、流暢に話しています。
紹介されている山口誓子の句は、次の2句です。 |
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無花果を食ふ百姓の短かき指
一湾の潮しづもるきりぎりす |
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この三鬼の解説を聞けば、なんで三鬼が俳句の傾向の違う山口誓子を「天狼」の主宰に担いだのか、謎の幾分かが解けるような気がします。
また、素人の少年の句は、次の2句です。 |
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久里浜の霧焼け一手に引き受けた
寒雀震えて止まる鉄格子 |
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三鬼は、この時期、久里浜少年院に俳句の指導に通っており、亡くなるまで非常に熱心でした。
少年たちも三鬼を慕っていて、三鬼ががんの手術をしたあと、たくさんの少年がお見舞いの手紙を寄せています。
(この手紙は、いま津山郷土博物館にあって、見ることができます。) |
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この句は、少年院に入所していた少年のつくったものです。
どちらかと言えば不良おじさんだった三鬼と少年たちとは、相通じるものがあったのかもしれません。
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