第 九 交 響 曲
ベートーヴェンは、9曲の交響曲を残しているが、第9番ニ短調はこの中でも特に優れた作品といわれている。
交響曲の中に声楽を取り入れ、器楽と理想的な結合を成し遂げ、苦悩、喜び、あこがれ、理想といった言葉を超えた感情をはっきりと音にとらえ、人々の心に訴えかけているのである。
詩はシラーの「歓喜に寄す」[Andie Freude]を用い、ベートーヴ、エンは20代のボン時代からこの詩に作曲したいという気持ちを持っていたといわれる。
第 一 楽 章
ばく然とした不安な響きに始まり、やがて主題の断片がひらめくように現れる。
それが激しく高揚して湧き上がってくるこの主題は、他に例を見ないほど巨大でエネルギッシュで、ある。
その後の展開も精力的で大規模である。
第 二 楽 章
極めて大がかりなスケルツォ。鋭いリズムに支えられた楽想が徹底的に発展する。
第一楽章に時々あらわれた「歓喜に寄す」の主題が、ここでは明瞭に主題として中間部に登場する。
第 三 楽 章
物静かな行情に支配された美しい変奏曲。感傷を込めた旋律が優しく流れるが、最後にはこの柔弱さにやりきれない不安がつのってくるかのように激しい高まりを見せ、そのまま終楽章にすべり込む。
第 四 楽 章
3拍子のあわただしい鳴動で始まる。
続いて低弦が何事かを語りかけるかのように、たびたび中断されながらレチタティーヴォを奏する。
過去の3つの楽章の主題が断片的に次々と現れ、そのたびにレチタティーヴォがそれを打ち消してゆく。
歓喜に到達するためには数々の苦悩を乗り越えねばならないのである。
やがていよいよ「歓喜」の主題が始まり次第に盛り上がるが、一瞬、楽章冒頭の鳴動にもみ消される。
この最後の難関を突破してバリトンが高らかに歌い出す。「おお友よ、このような音ではなく、もっと快い、もっと喜びに満ちたものを... . . 」
この歌詞はベートーヴェンが新たに作ったものである。続いて「歓喜jの主題が合唱を加えて歌い出され、さまざまに変奏され、声部の組み合わせをいく度も変えながら反復される。
曲想が一変し3拍子のアンダンテとなると、男声合唱が新しい堂々とした旋律を歌い始める。
「共に抱き合おう、百万の人々よ... . .」
やがて終結部に入ると曲は速度を速め、この「共に抱き合おう」と「歓喜」の主題が同時進行を開始し、対位法的な手法を用いて壮大に展開される。
このクライマックスを経たのち、2回のフェルマータ休止をはさんで、勝ち誇るかのような圧倒的な歓喜のうちに曲は閉じられる。
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